健康が可視化された財産へ トークンエコノミーがもたらす本来のあり方 ~その3~

ブロックチェーンをベースとしたトークンエコノミーでは、従来のものとは全く異なる収益構造が生まれます。そして、それによって、ユーザーと企業との関係性にも変化が生まれることとなります。

その変化は、社会や経済をどのような方向へ導いていくのでしょうか。そして、トークンエコノミーの究極的なゴールとは。

今回は、それらを主なテーマにお話しをしていきます。

トークンエコノミーとしての価値とは

ウェルネストークンエコノミーで収集したデータは主に3つに分かれます。それは、健康活動でバウンティに参加したデータ、検査結果のデータ、個人情報で、後者の2つは取得する難易度が高くなります。

ウェルネストークンエコノミーで収集したバウンティは参加すればそのデータを得れますが、検査は実際のユーザーの生体データを提出しなければならないという点でハードルが上がります。また、個人情報となると、その使途についての懸念など、より難易度が上がるため、それら取得難易度の高いデータほど報酬が高くなるというような報酬設計を、スマートコントラクトで作っていく形になるでしょう。

バウンティのデータだけでなく、色々な検査データや個人情報があれば、個人をどこまで特定できるのかという問題はあるものの、ウォレットアドレスに刻まれたトランザクションから、その人の健康の価値をより可視化できるようになります。

そのような形で収集されたデータプールによって、医療の発展は促されますが、データバンクにある情報を何にどう使えば良いのかが分からず、上手く活用されていないのが現状です。

例えば、製薬においても、何件のデータがあれば薬を作れるのか企業に尋ねても、誰も答えることはできません。

しかし、検査結果のデータや個人情報に加えて、バウンティといった健康活動の情報があれば、情報解釈に有益に働いて、より医療をコーディネートしやすい状況を作ることができるのではないでしょうか

それを発展させることで、ユーザー毎に本当に適した食事や製品の提供が可能になるというところまで落とし込めることを提示できれば、データを提供することの価値をユーザーに理解してもらえるはずで、そういう未来をみせていきたいと思っています。

バウンティに参加してポイントをもらっただけ、検査データや個人情報だけではなく、それらを上手く融合させて個人に帰属させること。それをポートフォリオにして、ヒエラルキーの中での位置をユーザーに提示することで、その人が今後病気になるリスクを軽減させるモチベーションにすることができます。

一朝一夕ではそのような健康の実現はできませんが、データを上手く活用することでそんな未来が開けるのではないかというところが、トークンエコノミーとして大きな価値になってくるでしょう。

ユーザーはデータ提供の正当な報酬を得るべき

ユーザーは自身のデータをバウンティを通じて提供している訳で、それに対する正当な報酬を受け取るべきでしょう。検体1つにしろ、バウンティのアクションにしろ、それを利用して新しい製品を作って商売しているのであれば、その収益構造の一部をデータ提供を行った人へ還元する仕組みはあって然るべきだと考えています。

しかし、サービスの設計上、これまでそのような仕組みを作ることは出来ませんでした。

でも、ブロックチェーンを使うことで、少額決済、スマートコントラクトが可能になり、少額の報酬であってもしっかり還元するということが実現します。

最初は、報酬の対象はデータの照会料だけかもしれませんが、ゆくゆくはそのデータを使った製品を販売した場合の利益の分配といったことも、私が取り組んでいるウェルネス のトークンエコノミー内のECなら作ることができます。

そうなると、ユーザーが、多くバウンティをこなしたり、検査データの提供を行うことでデータ量が増え、不労所得のような形で継続して報酬を得るという状況もつくり出せるかもしれません

例えば、知らないうちに報酬が貯まっていき、1か月くらいすれば家族で少し豪華な食事ができるということも、経済規模が大きくなれば可能でしょう。そこまで出来てこそ、ウェルネスプールのトークンエコノミーとしての設計上の仕組みに価値が生まれるのではないかと思います。

トークンエコノミーは企業とユーザーの新たな関係構築を生む

企業も今まで色んなデータを、様々なマーケティング手法でアンケートなどでとってきていましたが、アンケートは設計次第で大きく結果が変わってしまうというリスクもあります。そこをバウンティで行うことで、自分がどれだけ頑張ったかが定量化され、企業からも適切な評価をされることで、真面目にこなす心理的な動機付けもでき、収集するデータの質も上がります。

また、上手く企画することで、企業の利益を最大化するバウンティ設計も可能です。そして、企業の製品が売れることで、データ照会料以外の部分でユーザーに報酬が入るなど、企業だけでなくユーザーにも還元がされます。

また、ヒエラルキーが生まれること、そして企業のユーザーに対する見方が変わることで、頑張ったらその分より良い待遇が受けられるかもしれないと、ユーザーのモチベーションは向上するでしょう。ヒエラルキーに対する企業のアプローチへのユーザーからの期待感が、企業とユーザーの新たな関係構築を促します。

そのような、企業にとっても、ユーザーにとっても、お互いに良い関係を構築できるような仕組みはこれまでありませんでした。そういった意味で、トークンエコノミーは、既存の市場にはない、企業とユーザーの新たな関係構築を生み出すものだと思っています

トークンエコノミーのゴール

ウェルネストークンエコノミーのゴールは、上で述べた企業とユーザーの新たな関係性を構築することによる、個人に帰属する社会と経済の実現だと私は思っています。バウンティやトークンの循環、儲けや得をするというのももちろんあるのですが、一番強調したい点はそこです。

インターネットが台頭して、人と人との距離は近くなりましたが、そこでの取引には、間に介在する信頼がおける第三者、言い換えるなら中間マージンをとる人たちが存在する必要があります。でも、トークンエコノミーならそういった信用を証明する人たちがいなくても、スマートコントラクトで関係が成立します。

社会と経済は、より個人にフォーカスされていくべきです。そこを見つけていく、追求していくというのがトークンエコノミーの1つの面白さであって、そこはぶらしたくないところでもあります。

きっと、インターネットの黎明期から、大量生産や大量消費ではなく、本当に品質の良いものを、品質のいい部分だけを個人に提供できるようなサービスがインターネットならできるのではないかと、ネットの延長線からそういった社会を志していた人たちはいたはずです。

でも、インターネットによって距離は縮まりスピードは早くなったものの、人と人との信頼や信用を可視化して担保する仕組みはありませんでした。クレジット会社や決済代行会社などが、信用をもって調査することはありましたが、人が介在している分コストもかかってしまいます。

また、ソーシャルが発展して、ビジネスの場面でも、フェイスブックをみてこの人とこの人が繋がっているから信用できそうとはなりますが、だからといっていきなり1億円の取引をその人とすることは出来ません。でも、これが色んなトークンエコノミーを介在して、色んなウォレットアドレスで様々なトークンによるポートフォリオやヒエラルキーを持っている人だったら、過去の信用があるので、信頼できると私なら判断すると思います。

いきなり1億円の取引をしようと思ってもできるような社会、経済のようなものはあってもいいはずで、それはトークンエコノミーによって可能になるのではないでしょうか。

ユーザーは色んなトークンエコノミーに参加して、自身の得意分野をそこで伸ばしていくといった社会、経済的なものを、これから20年くらいかけて築き上げていくというのもおもしろいと私は感じています。

そして、健康に対してある課題に、この仕組みだったら解決できるのではないかという期待の元、そのような考えに賛同して動いてくれる会社さんも、株式会社Micro Blood Scienceの大竹さんをはじめ、何社か出てきてくれています。

そこをしっかり大事にして、トークンエコノミーの設計を進めていき、より個人にフォーカスされるようなものをつくっていくのは、色んなカテゴリーのものに当てはまるのではないかと思っていて、広がりとしても面白いです。今の時点では、そこを目指していくことをぶれずにやっていくのが、間違いのないことだと感じています。

川本 栄介(Eisuke Kawamoto) 株式会社アヤナスシグレ 代表取締役

1999年にDMM.comへ入社。日本におけるブロードバンド黎明期の頃からインターネット事業を生業とする。その後、2006年からはDMMを離れ、楽天、サイバーエージェント、SIer、スタートアップなどで主に新規事業を中心に携わる。2016年にDMMに復帰後はオンラインサロンやブロックチェーン関連の事業部長を経て2018年9月に退職。

現在はブロックチェーンをベースにしたトークンエコノミーを生業とする株式会社アヤナスシグレ代表取締役兼トークンエコノミーエバンジェリスト。他にも、浅草農園ストラテジスト、マイクロブラッドサイエンス社顧問。東京大学にてトークンエコノミーの特別講義を実施。