黒田日銀総裁が講演
日本銀行の黒田東彦総裁は4日、金融情報システムセンター(FISC)の記念講演会に登壇し、フェイスブック主導の仮想通貨リブラのようなグローバルステーブルコイン(GSC)や、中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)について語った。
日銀が公表した要旨によると、本講演のタイトルは「決済のイノベーションと中央銀行の役割ーステーブルコインが投げかけた問題」。冒頭部分で、キャッシュレス決済が本格化した2019年を振り返り、決済関連のニュースの中で今年最も話題となったのはリブラだと述べている。
リブラのようなGSCを全面的に否定するのではなく、法的な明確性や技術の安定性が確保されれば、便利な決済手段になり得ると説明。しかし、マネーロンダリングやサイバーリスク、データ保護、消費者と投資家の保護など様々な課題を解決することは必須で、それが実現しないと利用者も継続的にメリットを享受することができないと語った。
またGSCが普及すれば、金融システムや金融政策の波及効果にも影響が及ぶ可能性があり、様々な課題やリスクへの対応が整わないうちに発行すべきではないとの立場を改めて強調している。
そして「リブラの構想は、決済の面でも銀行にかわってノンバンクがプレゼンスを高めようとしていることの表れとみることができる」と発言。信用仲介や決済の機能を担うのであれば、ノンバンクも公共財の節度ある消費ルールを遵守する必要があると話した。
一方でリブラのような通貨が生まれる背景には、既存の決済システムに問題があるからだと発言。国際送金の費用が高く、送金時間が長いことを例に、リスクや課題を強調するだけではなく、既存の決済システムに対しても改善を促していく必要があると説明している。「中央銀行は、民間のイノベーションを促進すべきとの立場にある」ことも明確にした。民間部門のイノベーションは、国際送金のコストの高さや金融包摂を初めとする既存の決済システムの問題に着目して生まれてきていることを認識する必要があると語っている。
CBDCの必要性
金融安定という公共財を供給する公的機関として、民間部門のイノベーションを後押しするという視点に加え、自国通貨建てのデジタルマネーの利用を促進することも重視していく必要があると説明した。
この点に関して、CBDCを発行すべきかどうかは非常に重要なテーマだと述べている。しかし現時点では、現金流通高が現在も増加しているため、CBDCの発行を国民が求めているとは考えられないとの見解を示した。海外では多くの国がCBDCの調査や研究を進めていることは認識しているが、将来デジタル通貨発行の必要性が高まった時に的確に対応できるよう、技術面や法律面での調査・研究を進めていくと語っている。
また調査と研究を進めると同時に、現在民間企業が提供するキャッシュレス決済という円建てのデジタルマネーの利用を促進し、CBDCが目指す決済機能の向上を実現させると説明。⺠間のデジタルマネー間で相互運用性が高まれば、「一般受容性」という点でCBDC近接し得るという考えを示した。
参考資料 : 日本銀行