CoinGeckoは、2014年から世界中の仮想通貨の価格や取引量、取引所のデータ、四半期ごとの業界分析レポートなどを提供する仮想通貨情報のプロバイダーです。
第一回は仮想通貨マーケットのデータを考える上で重要な「Fake Volume」の問題と、その対応策について解説したいと思います。
Fake Volume問題とは?
「Fake Volume」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?これは「偽造取引高」を意味し、取引所による取引高の偽造や捏造などの行為、もしくは取引高が現実より大きく申告されてしまっている状態を指します。
Fake Volumeの問題はかなり以前から指摘されていましたが、今年の3月にBitwise Asset Managementが95%以上のビットコイン取引高は偽物(Fake)であると分析、指摘するレポートを公開して大きな話題になりました。
またFake Volumeの問題は当然ビットコインだけに留まりません。実際に複数のICOコインの開発チームに依頼され、規制されていない取引所上でFake Volumeを作る仕事をしていたロシアの大学生の詳細な証言が、先日CoinDesk社が公開した記事 でリークされていました。
なぜ取引高を偽造するのか?
偽造取引高を自作自演することで、取引所はCoinMarketCapなどのランキングで上位にランクインし、自社の認知度やサイトへのトラフィックを増やそうとしています。また取引偽装を依頼するアルトコインの目的は、取引量の規定を満たすことで主要取引所への上場を狙っていることなどが考えられます。
問題は、規制が存在しない環境では取引所とアルトコイン開発者双方に取引高を偽装するインセンティブが存在し、その為にこの問題が慢性化、常態化してしまっていることです。
実際現在もCoinMarketCapの取引所ランキングページを見てみると、上位にランクインしている取引所はあまり名前を聞いたことのないようなところも多いです(世界最大規模と思われるBinanceが申告ベースでは8位)。
なぜFake Volumeは大きな問題なのか?
私たちがFake Volumeを問題視する理由には以下のようなものがあります。
第一に、間違ったデータを基にユーザーがコインや取引所の選択をし、そこで不利益を被ったり、コインを持ち逃げされたりしてしまうリスクがあることです。アルトコインの中では価格や取引高を偽造することでユーザーを呼び寄せ、開発者の現金化を狙うものもあります。
第二に、Fake Volumeや市場操作が蔓延している状態は非常に不健全で、業界全体の発展を阻害しかねないからです。ビットコインETFの採用が数年間遅れていますが、この理由の一つにFake Volume含む市場操作が挙げられています。
また、特に日本のような世界に先駆けて仮想通貨取引所が規制されている国では、海外取引所の取引高の工作が一因で相対的なポジションが過小評価され、グローバルでの存在感が落ちてしまうといった面もあると考えられます。
このようにFake Volumeの問題はトレーダー、取引所、そして業界全体にとってネガティブな影響を与えており、CoinGeckoではこの問題を軽減、撲滅したいと以前から考えていました。
CoinGeckoのトラストスコアの取組み
そこで今年5月から、CoinGeckoではFake Volumeを撲滅するための独自のトラストスコアシステムを導入しました。
これは、単純な取引所からの申告ベースの取引高だけでなく、ウェブトラフィックの解析とオーダーブックの分析から、取引所のより正確な取引高を計算する仕組みです。
例えば、取引所が申告した取引高に対し、サイトのウェブトラフィックがその他の主要取引所に対し低い場合、実際に取引所を使用するユーザーは少なく取引高が過剰申告されている可能性が高いと考えられます。
また、オーダーブックのスプレッドやデプスを分析することで、掲載されているコインの価格で本当に実質的に取引が可能かどうかを各コインごとに判断し、オーダーブックの健全度を計測しています。
これらのデータや手法を組み合わせて取引所の実効的な取引高を推定することで、CoinGeckoではより現実に即した正確な取引所ランキングの提供を始めました。
新しい修正取引高ランキングでは申告高ベースとは大きく異なり、日本でも知名度の高い取引所が上位にランクインしています。
また、申告ベースのランキングでは全て50位以下に格付けされている日本の取引所も、CoinGeckoのランキングでは相対的にランクを上げており、7月21日時点で現物の取引ではBitbankが16位、coincheckが24位にランクインしています。このようなデータを活用することで、グローバルでの日本市場の存在感もより正確に把握することが出来ると考えています。同様に、外部データを利用した取引所の実力や健全度の測定はCryptocompare も6月から始めており、こちらのランキングでは日本の正式な規制の存在が高く評価されており、bitFlyerが世界4位、Liquidが同5位と評価されています。また、CoinMarketCap自身も取引所との連携を強化し、正確な情報を共有することで、Fake Volumeを排除していく計画を発表しています。
このように、Fake Volumeの問題は外部データの活用や業界分析を通してさらに認知され今後改善していくと思われますが、現時点ではユーザーへの啓蒙やリテラシー向上が必要となっています。
まとめ
偽造取引高(Fake Volume)の問題は根深く、トレーダー、取引所などの事業者、界隈全体にネガティブな影響を与えていると言えます。申告ベースの取引高のみで判断するのではなく、複数の指標やランキングなどを組み合わせる必要があります。
CoinGeckoではFake Volumeの問題を真剣にとらえており、今後もより正確なデータやAPIの提供を通してこの問題を解決し、個人や企業のより良い意思決定、業界全体の健全化に貢献していきます。