仮想通貨の流出リスク、ヘッジとしての「保険」は機能し得るのか|DMM Bitcoinコラム(セキュリティ編)

仮想通貨の流出リスクへの対策として「保険」をかけるという方法も有り得ます。ただし私は、今はそれは現実的な方法ではないと思っています。

なぜ実現可能性が低いのか、またカストディに対する保険への見解についても、本記事ではお話しします。

ヘッジとしての「保険」は機能し得るのか

仮想通貨流出リスクのヘッジの1つとして「保険」が挙げれます。ただ、そのような保険はかける意味があるのかなというのが私の見解です。

なぜかというと、コスト的な面から考えても、その分をコールドウォレットの管理やセキュリティ強化のための人件費などに充てた方がいいと思っているからです。

ここ1年半で、日本では3回の仮想通貨流出事件が起きています。これは、現在登録されている交換業者16社の内3社で事件が起きている状態で、その1回あたりの被害額は単純計算で約200億円になります。

これを表現を変えて表すなら、利用者財産が流出する可能性は最大で20%、年間で1割ということになります。お客様から預かっている財産の20%が流出する可能性が、年間1割の可能性で発生する、これを保険で適用するという話です。

その場合どのくらいの保険料率になるのか、ざっくり計算できますが、保険商品は保険として支払われる損害額があります。これが純プレミアム(ピュアプレミアム)です。

お客様の財産の2割に対して、1割の損害確率があるとします。仮に10億円のお客様の資産があるとすると、その資産に対する2割の2億円が流出する可能性が10%あるということで、そこから商品を作るとなると2000万円になります。

また自動車保険の場合、損害に支払う保険料はだいたい4割程度ローディングコストというものが乗せられています。それを2000万円に乗せると、3500万円くらいの保険料になります。

つまり、10億円持っているお客様の場合、その年間の保険料は3500万円ほどという計算です。

そのため、10億円の保険損害の、損害金が10億円に対する年間の保険料は、1~2%くらいで1000万から2000万円ほどかかります。

このコストを保険にかけるのか、それともコールドウォレットの管理や、ホットウォレット管理の安全性を高めるなど、人を入れて目視確認することなどにお金を払っていくのか、どちらをやりますかという話なのです。

この場合、私は保険ではないと思っています。月に300万円をそこにかけるなら、人をもう1人雇って環境を整えるだったり、コールドウォレットをビットゴー(仮想通貨カストディサービスを提供)のような仕組みに作る方がいいという考え方です。

各社いろいろなアプローチはあると思いますが、今の段階では見合わないのではないでしょうか。また、保険会社も危険度が上がりすぎて、引き受けることが出来ないのではないかなと思いますので、今の段階では保険を使うというのは厳しいでしょう。

カストディに保険は不必要

カストディの生産基盤がしっかりできたとする場合、理論上は保険はいらなくなり、保険をかける意味はなくなります。

カストディ自身にかけるかというと、カストディ自体の仕組みにもよりますが、それが分散台帳のような形の技術を用いた生産基盤の場合は、必要はないはずです。なぜなら、そこからハッキングして盗むというのはほぼ不可能だからなのですが、それについては次回で詳しくお話しします。

ただ、保険として成立し得る領域もあると思っていて、それはお客様側にかける保険です。これは何かというと、仮想通貨ということよりも、情報機器類へのハッキングに対する損害発生に備えたものです。

キャッシュレス社会がどんどん進む中で、あらゆる個人情報をコントロールする秘密鍵のようなものがスマホに存在して、それを使って様々な処理が行われるとします。そうなった場合は、そのスマホや情報機器類に対して個人が保険をかけるというのはあるかもしれません。

また個人がかけるコストというのを、特定のサービサーが自分のサービスで付帯するということも有り得るでしょう。その場合の方が、台数が多いため保険も安くなります。

取引所に対する保険というのはいまいちですが、個人向けであれば普及する可能性はあって、携帯会社がやるというのも有り得ます。

携帯の情報がハッキングされた場合など、それを付保するようなサービスを始めるかもしれません。通話料にそれを含めるかもしれませんし、場合によっては通話料に含めずに、+300円払うと情報がハッキングされた場合における損害の保険などを受けれる形になるのもありえるでしょう。

個人が契約するよりも、団体保険にするほうが大数の法則が働いて、保険は安くなります。そこからいうと、スマホ自身の保険というような形で生まれてきて、スマホに付帯されるということもあるかもしれません。

新たな施策としての「カストディ」

安全管理の水準を上げる施策の1つとして、業界全体で「カストディ」を設立するという方法が有効かもしれません。

中央清算管理をするようなカストディを設立することによって、安全な資金移動が可能になります。

そのようなカストディはどのような仕組みで機能するのか、またそれが業界全体のセキュリティ向上につながる理由を、次回でお話ししていきます。

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田口 仁 DMM Bitcoin 代表取締役

埼玉県越谷市出身。早稲田大学政治経済学部を1994年に卒業し、三菱商事株式会社に入社。 その後は、ライブドア、DeNA、EMCOMなどで様々な事業立ち上げや運用に携わり、現在は「DMM Bitcoin」の代表取締役社長。