Fidelity Digital Assets(FDAS)の責任者であるTom Jessop氏は、イーサリアムの取り扱いに関してハードフォークのアップグレードが懸念点として上がっていたことを明かした。世界最大の金融機関の一つであるFidelityが暗号通貨のトレーディングと保管サービスを専門に行うために立ち上げられたのがFDASだ。
FDASは暗号通貨の保管サービスを今月すでに開始しており、現在は唯一ビットコインのみ受け付けている。今後暗号通貨の種類を増やしていく予定で、Jessop氏は高い需要が見込まれる市場ランキングで上位に入っているコインを順に追加していくと語っている。
イーサリアムは時価総額ランキングでビットコインに次ぐ2位に位置しており、順当に行けばFDASが次に追加する暗号通貨となる。しかしイーサリアムのハードフォークによるネットワークへの悪影響を懸念していたFDASは、イーサリアムの取り扱いを先延ばしにしてきた。
イーサリアムは先月、ハードフォーク「Constantinople 」を実施しソフトウェアのアップグレードに成功した。Constantinopleはコードに重大な脆弱性が発見されたことにより2度に渡りアップグレードが延期されてきた。
Fidelityのような伝統的な金融機関はハードフォークを頻繁に行う暗号通貨を敬遠するかもしれない。ハードフォークは互換性がないソフトウェアのアップグレードであるため、ネットワークが不安定であると判断される可能性があるからだ。
分散合意をベースにしたブロックチェーンでは、個々のユーザーがノードを立ち上げネットワークと同期するため、ハードフォークによるソフトウェアのアップグレードを受け入れるか否かは個々のユーザーの裁量に委ねられる。
1月に予定されていたConstantinopleが延期された際は、延期の事実を知らされていなかった一部のマイナーがソフトウェアのアップグレードを行いネットワークから離脱している。
さらに、分岐が発生した際にどのブロックチェーンを正しいチェーンとするのかを定義する問題もある。2016年にThe DAOのハッキングがきっかけとなりハードフォークが行われた際は、イーサリアム(ETH)とイーサリアム・クラシック(ETC)にブロックチェーンが分岐している。多くのユーザーが創始者であるVitalik Buterin氏が支持するソフトウェアをETHとした一方、一部のユーザーがこれに反対したためETCが誕生した。
少数派のユーザーの中にはETCが本物のETHだとするユーザーもいた。管理者が存在しない暗号通貨を明確に定義することはできず、分岐が発生した際はネットワーク内のコンセンサスによってブロックチェーンが定義される。
ネットワークのコンセンサスによって定義される暗号通貨は、個々のユーザーにブロックチェーンを選択することができる自由を与える一方、法的なブロックチェーンの定義を難しくしている。FDASが暗号通貨を伝統的な金融商品として扱う場合は、このようなコンセンサスに基いて選ばれる暗号通貨の曖昧さを、明確に顧客に説明する必要性が出てくる。
ハードフォークが頻繁に行われたり、ネットワークのコンセンサスが安定しない暗号通貨はFDASにとっては扱いづらい。
暗号通貨を正式に扱うためにクリアにするハードルは残されているものの、FDASは今後多くの資産がブロックチェーン上に記録され、トークン化される未来が来ると予想している。その際には機関投資家からのトレードや保管サービスに対する高い需要があることを見込んでいる。