2019年3月:暗号資産マーケットダイジェスト

3月相場動向概要

暗号資産の代表格であるビットコイン(BTC)の対ドル相場が小幅な上昇にとどまるなか、ライトコイン(LTC)、ビットコインキャッシュ(BCH)、バイナンスコイン(BNB)、ステラ(XML)、カルダノ(ADA)等、上位アルトコインが今月も上値を伸ばした(第1図)。今年に入りアルトコインの巻き返しが始まったことで、BTC時価総額の市場シェアは若干ながら下落基調となっており、足元、昨年8月ぶりに50%割れ目前となっている(第2図)。

BTCは3853.76ドルから今月はスタート。相場は概ね7日線周辺で推移しながら緩やかな上昇基調を維持し、足元4080ドル周辺で推移している。売り優勢の局面では30日線がサポートとなり相場が反発した。

ETHは月初の136.84ドルから小幅上昇。一時は160ドル台に乗せる局面もあったが、27日の反発まで上値が重くなり、足元140ドル周辺で推移している。

XRPは今月小幅安。月前半は7、30日線を挟み込む値動きで相場は横ばいとなったが、21日から売り優勢となった。26日には節目の0.3ドルがサポートとなり反発したが、翌27日にはは30日線(0.3136ドル)がレジスタンスとなり反落。足元7日線(0.3087ドル)周辺で推移している。

【第1図:主要暗号資産銘柄月次騰落率(対ドル)】

出所:coinmarketcapより作成

【第2図:暗号資産時価総額別市場シェアパイチャート】

出所:coinmarketcapより作成

Binance Launchpad再開:暗号資産の資金調達の流れに変化

BNBが著しい上昇を記録している背景には、今年に入ってからの「Binance Launcpad」再開が市場で好感されていることが挙げられる。また、BNBはバイナンスでの取引手数料を削減できるユーティリティートークンであることから、BNB需要の増加が少なからずアルトコインの取引を増加させていることも推察される。

しかし、Binance Launchpadで再び注目を集めているICOだが、市場は昨年6月のEOSのICO終了を皮切りに低迷が続いている。2019年のICO月間調達額は、2017年の水準を上回るものの、2018年の水準を大きく下回っている(第3図)。前年の同月で比較すると、1月が12.8%、2月が10.34%、3月は29日現在で2.03%にとどまっている。さらに、今年Binance Launchpadを通じて調達された資金の総額は、市場全体のおよそ3%程度にしか満たない(CoinSchedule、ICObench調べ)。バイナンスの業界でのプレゼンスは相応に高いが、下火が続くICO市場を好転させるほどのインパクトは依然確認されない。

尤も、2018年のICO市場は異常なほどの盛り上がりを見せていたとも言える。各国のICOを巡る法的な規制方針が定まらないなか、スタートアップでもスピード感を持ってグローバルに資金調達ができるということで、市場は爆発的な成長を見せた。しかし、詐欺的な案件の横行を懸念した各国の金融当局が咄嗟に取り締まりに乗り出したことも周知の事実であろう。こうした動向から、証券をトークン化して資金調達を行うSTO(Security Token Offering)や、暗号資産の取引所を介して行われるIEO(Initial Exchange Offering)に注目が集まっている(本項では両者ともICOの一種として捉える)。

上述のBinance LaunchpadもIEOとなるが、IEOには従来のICOにはない利点がいくつかある。まずは、IEOを行うためには、発行体は取引所の審査を通過しなければならない。取引所は監査法人ではないものの、どんな発行体でもできるICOと比較して投資家に安心感を与えることができる。その上、バイナンスのようにユーザー数の多い取引所でIEOができれば、目標調達額達成の確率も上がる。取引所は、逆に、その手数料(リスティング・フィー)を収益として確保でき、お互いウィン・ウィンな関係となる。

【第3図:ICO月間調達額チャート(2017年1月〜2019年3月29日現在)】

出所:CoinScheduleより作成

IEOを請け負う取引所は、この先増加すると見ている。暗号資産の現物市場がピーク時のような盛り上がりを失った今、取引所は取引手数料以外の収益を確保しに動くと考察されるからだ。事実、海外では、Huobi、Kucoin、BittrexなどがIEOを検討・実施している。一方、本邦では、先の資金決済法、金融商品取引法改正案の閣議決定により、金融一種免許が必要条件となる方向のため、ICO(STO、IEO含む)のハードルは相応に上がる見通しだ。しかし、海外でのIEO件数が増加しようとも、国際的に規制が整いつつあるなか、昨年のような爆発的な成長はないと予想する。

昨年11月のクラッシュ前を彷彿とさせる市況:見通し悪さは強まる

3月のBTC相場は小幅高に止まったものの、アルトコインの躍進もあり市場時価総額は月初の1307億ドルから足元1417億ドルまで上昇し、今月は一段高となった。こうしたなか、今月のBTCヒストリカル・ボラティリティー(HV)は低下基調一色となり、27日時点で1ヶ月物のHVは月初の50%周辺から21.8%まで低下した(第4図)。この水準は、昨年11月の市場クラッシュ前と同等の水準となる。10日物HVに関してはNYダウのそれと近い水準まで低下している(27日時点でBTC:15.4%、NYダウ:13.7%)。

尤も、2月のある程度相場が振れていた期間を通過した結果、1ヶ月物HVが急激に低下したわけだが、流石にここまで低水準ともなればそろそろ相場が大きく動いてもおかしくないだろう。昨年10月にBTCのHVが低水準まで低下した際は、出来高が減少傾向だったことから投機熱が冷めきったと判断され、相場が底を突いたシグナルであると期待されたが、結果は周知の通りだ。現在も主要取引所では出来高が減少傾向にあり、昨年11月のクラッシュ前と似たような状況となっている。

しかし、米先物市場参加者のネットポジション は昨年11月と大きく異なる。昨年は、4月から11月のクラッシュまでの間にファンド勢(Leveraged Funds)のネットポジションがマイナス圏から徐々に上昇していた。しかし、昨年11月以降のファンド勢のネットポジションはマイナスに大きく振れており、前回の教訓からか、バイサイド・トレーダーは警戒を強めているようだ(第5図)。

【第4図:BTC10日物/1ヶ月物/3ヶ月物ヒストリカル・ボラティリティー/対ドルチャート】

出所:coinmarketcapより作成

【第5図:米先物市場ネットポジション推移(Traders in Financeal Futures)】

出所:CFTCより作成

さらに、4月には英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)を巡る重大イベントも控えており、見通しが良いとは到底言えない。先週21日には、離脱のタイムリミットが後ろ倒しになったという報道を受け、ポンドの対ドル相場が崩れる局面があった。この際、BTCも一時的に売り押されたため、ハードブレグジットの場合は暗号資産市場にもリスクオフムードが波及する可能性を念頭に入れておく必要があるだろう。

これに加え、米中貿易協議の先行き不透明感や、先の米連邦公開市場委員会(FOMC)後のジェローム・パウエル連邦準備制度理事会議長の世界経済の減速を懸念する姿勢等を踏まえると、先進国市場はしばらく弱含みとなることが懸念される。また、ドルの利上げ見通しが引き下がったとは言え、こうした状況ではリスク資産に資金が流れにくいと想定される。BTCはQ2に上昇しやすいというアノマリーがあるが、しばらくは辛抱を要する展開が継続しそうだ。

なお、余談とはなるが、週明け4月1日はエイプリルフールとなる。昨年はイーサリアム財団のビタリック・ブテリン氏が暗号資産技術を駆使した世界貿易通貨構想を発表するなど、冗談で突飛な行動にでた。今年もこのような「冗談」すなわち嘘の情報が流れることが予想されるため、注意する必要がある。

【2019年4月スケジュール】

出所:各種報道/情報サイト等より作成


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