- ZCashプロジェクトのCEOに独占インタビュー
- CoinPost編集部は、匿名通貨ZCashプロジェクトのCEOを務めるZooko Wilcox-O’Hearn氏に独占インタビューを実施。匿名通貨の重要性や、コインハイブ事件、ライトコインの匿名技術導入など、様々な話題に関する見解を伺った。
- 「HTTP」「HTTPS」とは
- HTTPとHTTPSの主な違いは通信内容が暗号化されているか否かという点。「HTTP」と違い「HTTPS」はSSL(Secure Socket Layer)というプロトコルを利用することで、通信内容が暗号化され、より安全に運用することを可能とする。
ZCashプロジェクトのCEOに独占インタビュー
CoinPost編集部は、匿名通貨ZCashプロジェクトのCEOを務めるZooko Wilcox-O’Hearn氏に独占インタビューを実施し、ZCashに関する疑問や匿名通貨の重要性などを伺った。
ZCashは、第2のビットコインと言われるほど、ビットコインと共通した特徴を持つ。その理由として、主に3つが挙げられる。
- 発行上限が2100万枚(BTCと同じ)
- 4年に1回の半減期
- トランザクションの合意方法が同じ(PoW)
ビットコインと似たシステムを持つZCashだが、同通貨とビットコインとの一番の違いは、「ゼロ知識証明」と呼ばれる技術を利用することでもたらされる匿名性だ。
ただ、その匿名性の高さから、マネロン・テロ資金供与対策上の問題が懸念されるなど、匿名性とアダプションとはトレードオフの関係があるのではないかとの声もある。
そこで「匿名性」がなぜ重要なのかをCEOに尋ねた。同氏は以下のように述べている。
「匿名性」は、プライバシー保護あるいはセキュリティと考えることができる。
サービスを利用する際に、個人情報が管理権限を持たない者に漏れるということは、セキュリティ上、懸念されることだ。
だから、我々は「匿名性」とは呼ばず、セキュリティと呼んでいる。
そしてこれは非常に重要なことです。というのも、多くの人は今、「インターネットのセキュリティやプライバシーが十分ではない」ということを理解し始めているからだ。
日本の方々がどのように感じているかは分からないが、フェイスブックでのスキャンダルやそれと同様の事例が多く発生した影響で、米国やインドに住む多くの人々は、セキュリティやプライバシーに関して、大変懸念を抱いている。
セキュリティは、(仮想通貨業界にとって)新規参入や個人で使用する際に、非常に大切になってくる。
匿名通貨の利用される場面とは
また「匿名通貨は個人で使用する際や重要な機密を扱う場面などの、一部のカテゴリーで有用なのか。」との質問を投げかけた。
プライバシーやセキュリティが重要ではないときとは、どういう場面か。
EUには「GDPR (General Data Protection Regulation)」があり、コンピュータ・サービスを提供する際には、EU在住の市民の個人情報を流出させてはならないと定められている。そしてZCashは、そのGDPRの要件を満たしている。
なぜなら、ZCashは個人情報流出を防ぐことができるからだ。ZCashは、そうした個人情報に関して規定されたルールを満たすことができる。
企業などが提供するサービスで、ユーザーがZCashを利用する場合、個人情報は暗号化され他人に見られることはないが、(企業や規制当局などの)管理者はZCashのトランザクション内容を確認することが出来る。
プライバシーは、一部のアプリケーションで重要だと言ってたが、長期的な視点で見ると、その考えは間違いだと思う。
ウェブが初めて台頭したころ、ウェブは暗号化されていなかった。「HTTP」を利用すれば、不特定多数の人に情報が漏れてしまう。
そして1994年に「HTTPS」が開発されたが、その当時の人々は、その技術は一部の目的にのみ利用されるものだと考えていた。
そのため実際に米国のNSAは、当時「HTTPS」は犯罪者に不正利用されると捉えられていたので、「HTTPS」の使用規制を試みている。
しかし20年後の現在、すべての政府が「HTTPS」を利用することを求めており、インターネット利用者を犯罪集団から保護するために広く導入されている。
これと同じことが仮想通貨にも起きると思っていて、20年後には、すべての政府が仮想通貨のトランザクションを暗号化するように規定するだろうと予測している。そしてZCashは、そのように、利用者の個人情報を保護することのできる仮想通貨だ。
先月、ライトコインが匿名技術を導入したことが話題となったが、そうした匿名通貨へと移行する背景には何が考えるのだろうか。同氏の見解を求めた。
ライトコインの開発者ではないので、理由は分からないが、この業界ではプライバシーというものを非常に重要視している人は多い。
また、プライバシーやセキュリティは非中央集権化やセンサーシップ・レジスタンス(検閲耐性)にとっても重要なものだ。
そのため多くの開発者が、自身の開発するプロダクトにプライバシー保護(匿名性)の機能の追加を試みているのだと思われる。
ZCashのアップグレードについて
「saplingを導入し、zk-SNARKsのメモリ使用率が大幅に低下したのにも関わらず、遮蔽取引は以前として少ないままだが、その原因は何だろうか。」
その理由には、遮蔽取引をサポートしていないウォレットが多いことにある。2019年には、我々は、遮蔽取引に対応したウォレットを増やすことに労力を費やしていきたい。
日本でも使われる「トラストウォレット」でZCashが追加されたが、今のところ遮蔽取引には対応していない。ただ今後、遮蔽取引に対応していくと発表している。
日本について
「日本ではコインハイブ事件が話題となっている。先進的な技術を試したエンジニアが検挙される事例が相次いでいる。エンジニアとして、こうした状況を見てどのように感じるか。」
日本の規制当局は、法整備に向け前進していると思うが、新たな技術を試す際に、エンジニアの萎縮を避けるために、しっかりと規制を定める必要がある。また、徐々にではあるが、そうしたグレーゾーンは少なくなってきていると感じている。
「最後に、日本の読者に何か伝えたいことは。」
私からのメッセージとしては、仮想通貨市場は低迷しているが、技術は日進月歩の勢いで発展しているということだ。ビル・ゲイツは「私たちはいつも、今後2年で起こる変化を過大評価し、今後10年で起こる変化を過小評価してしまう。」と言っている。今から10年後には、状況は一変し、より良い環境が築き上げられるだろうと思う。
このインタビュー後、Wilcox氏は、Neutrinoで開催されたミートアップにて「Intro to Zcash Discussion」と題したピッチを行ったが、その際にもプライバシーやセキュリティの重要性を強調していた点が印象的であった。