2019年4月:暗号資産マーケットダイジェスト

4月相場動向概要

今月の暗号資産市場は、2日に全面的な相場急騰を記録したことでおよそ4ヶ月ぶりに時価総額を1500億ドルの大台に乗せた。しかし、月後半からアルトコイン相場が失速し、時価総額上位銘柄の月次騰落率は結果的に高安まちまちとなった(第1図)。アルトコイン失速の背景には、年初来のアルトコイン高を先導したバイナンスコイン(BNB)の対ドル相場が過去最高値周辺で反落となり失速したことが挙げられる。BNBは、先月60%以上の上昇率を記録したが、今月は27.7%の上昇に留まった(4月26日時点)。

2019年Q1はBNBを筆頭に時価総額上位のアルトコインが積極的に買われたことで全体的に上昇モメンタムが作られたが、今月後半からはこうしたアルトコイン買いも一巡し、BTCに資金が流れた模様だ。事実、BTCの市場シェアは前月比で増加しており、アルトコイン離れが加速がBTC相場上昇を支えたことが指摘される(第2図)。

しかし、日本時間26日朝方には、Bitfinex社がTether社の米ドルリザーブを不正に利用し8億5000万ドルの損失を補填した疑いで、ニューヨーク司法長官が両社の運営会社iFinexを訴追したと報道され、BTCも含め市場は全面安となっている。

【第1図:主要暗号資産銘柄対ドル月次騰落率】


※4月26日時点集計
出所:coinmarketcapより作成

【第2図:暗号資産時価総額別市場シェアパイチャート】


出所:coinmarketcapより作成

BTCの対ドル相場は7日、30日移動平均線が200日移動平均線でゴールデンクロスを示現。ボリンジャーバンドでは2日の急騰で極度に収縮していたバンドが急拡大し相場が一時3σを上抜いた。足元では、バンドが収縮し相場もセンターラインを割り込んでおり目標達成感が伺える。一目均衡表では強い買いシグナルとなる三役好転を維持している(第3図)。

【第3図:BTC対ドルチャート(移動平均線、ボリンジャーバンド、一目均衡表)】


出所:coinmarketcapより作成

ETHの対ドル相場は7日、30日移動平均線が200日移動平均線でゴールデンクロスを示現。一方、相場は23日、7日線を割り込むと翌25日には30日線をも割り込んだ。2日から急拡大したボリンジャーバンドは23日には収縮し相場の値動きも一巡。足元、相場下落と共に再びバンド幅が拡大し下値を探る展開となり易いと言えよう。一目均衡表では三役好転を維持。この先は抵抗帯(雲)上限がサポートとして機能するか注目される(第4図)。

【第4図:ETH対ドルチャート(移動平均線、ボリンジャーバンド、一目均衡表)】


出所:coinmarketcapより作成

XRPの対ドル相場は2日から5日にかけて上昇するも200日線がレジスタンスとなり反落。足元7日線が30日線と90日線でデッドクロスを示現している。ボリンジャーバンドは2日から9日にかけて相場の上昇と共に拡大したものの、相場は10日から下げ足を早め、12日にはセンターラインを割り込み、24日には-1σ周辺から一気に-2σを割り込んだ。一目均衡表では均衡表と遅行スパンが逆転し相場は抵抗帯(雲)も割り込み弱気相場を示唆している。

【第5図:XRP対ドルチャート(移動平均線、ボリンジャーバンド、一目均衡表)】

出所:coinmarketcapより作成

Bitcoin SV排斥の動き:自称サトシらの言動に対抗か

足元の相場は崩れているが、今月BCHが高いパフォーマンスを維持した背景には、著名な取引所やウォレット・プロバイダーの間でBitcoin SV(BSV)を排斥する動きが波及したことが挙げられる。

ことの発端となったのは、BTCの開発者であるサトシ・ナカモトを自称するnChainのクレッグ・ライト氏やCoingeekのCalvin Ayer氏などのBitcoin SV支持者が、ライト氏をサトシ・ナカモトと認めず批判する複数の人物に対し、訴訟を起こす旨を相次いで表明したことと見られている。

ライト氏は、Bitcoin ABCが提案した先のBCHのハードフォークによるアップデートに異論を唱え、Ayer氏らの協力の下、独自のコイン「Bitcoin SV(ビットコイン・サトシ・ビジョン)」へのハードフォークによる分岐をリプレイプロテクションをしない状態で行うことを決断した。どちらが正しいかはさておき、これにより、Bitcoin ABCかBitcoin SVのどちらが真の「ビットコイン」かをかけた「ハッシュ闘争」が勃発し、市場に混乱を齎したわけだが、ライト氏はこの頃からSNS上での過激な発言で注目を集めていた。

さらに、先月にはビットコインとビットコインキャッシュのクライアントを開発するBitcoin Unlimited(BU)チームからベテラン開発者が2人が、チーム内のBSV支持者の多さやそうした支持者のBCHに対する過剰な敵対心などを理由に、BUからの離脱を表明するという出来事もあった。

今回はライト氏のみならずこうしたBSV支持者の過激な言動が行き過ぎたと判断され、15日のBinanceを皮切りにShapeShiftやKraken、更にはBlockchain、SatoWallet、Phantasma ChainといったウォレットやエコシステムもBSVのサポート取りやめを発表した格好だ。これにより、BSVの価格は大打撃を受け、ライバル銘柄であるBCHの市場に資金が流れ一時的に相場を押し上げた。

coinmarketcapによると、BSVの市場の数はBCHの半数にも満たず、法定通貨とのペアを上場させている取引所も比較的限られている上に出来高も少ない。また、市場シェアの大きい日本においてはBSVを上場させている取引所はなく、こうした世界的に著名な取引所による取り扱い廃止はBSVコミュニティーにとって相応の痛手となっているだろう。

昨年12月にBitcoin SVが自身のチェーンの安定性を考慮しリプレイプロテクションを実行すると発表したことでハッシュ闘争に幕が降りたと思いきや、予想外の展開でBitcoin ABCが大幅リードする格好となった。

一方、日本では16日、SBIホールディングスが運営する取引所SBIバーチャル・カレンシーズ(SBIVC)が、時価総額の大幅下落や更なるハードフォークによる価格下落の可能性を懸念し、BCHの取り扱い廃止を発表したが、本件はBSVに起きたような排斥運動には発展せずBCH相場にも特段影響を与えなかった。

BTCは長期上昇相場突入となるか

BTCの対ドル相場は16日、実に約3年半ぶりに30日移動平均線が200日移動平均線の上抜けに成功した。前回、2015年10月に30日線が200日線でゴールデンクロスを示現した後は、相場が長期上昇トレンドに突入し2017年12月までその勢いが続いたため、テクニカル的に足元のチャートは長期下降トレンドから長期上昇トレンドへの転換を示唆していると言えよう。

しかし、かねて指摘の通り、2015年のリバーサルのパターンを参照すると、今月の反発前のBTC相場は底を固める期間が短いことが懸念される。

2013年のBTC相場はキプロス・ショックなどを背景に急騰したが、翌2014年は弱気一色となり年間で80%以上の下落率を記録した。相場はその後、2015年10月まではおよそ210〜310ドルレンジ内での推移となり、90日や180日の中長期物ヒストリカル・ボラティリティ(HV)はそれぞれ35%と44%まで低下し、長期的に市場から投機マネーが抜ける期間があったと推測される。一方、2018年12月から今年3月までの相場は3200〜4200ドルの安値圏で推移し、10日や30日の短期HVはそれぞれ14%と22%まで低下したものの、長期のHVが低下基調となる前に相場が反発している。底値圏での相場推移の期間を単純に比較しても、2015年が約10ヶ月で直近が約3ヶ月半と短く、相場が上昇トレンドを長期的に維持するには「準備期間」が短いことが指摘される(第6図)。

また、相場が長期上昇トレンドであった際は、10日や30日の短期物HVが平均値を挟み込む推移となっており、2017年下半期から相場上昇が更に加速した局面では平均値を上回る水準で推移する日が多くなっていた。こうしたことから、10日や30日物HVの推移が相場上昇局面でのモメンタムを把握するヒントになりそうだが、足元では30日物HVは平均値より低い水準で推移しており、これまでの傾向から言って、この先相場が長期的な上昇トレンドを維持できるかが危ぶまれる。一方、これが平均値を超え、同水準を挟み込む推移となれば、相場が上昇トレンドを維持するヒントとなりそうだ。

その他のテクニカル指標においても、この先は強いレジスタンスがあると想定される。BTC対ドルの週足チャートを見ると、この先は厚い抵抗帯(雲)が待ち構えており、これが相場の重石となることが指摘される(第7図)。とは言え、相場は足元上昇トレンドにあり、向こう2、3週間の間に6000ドルを目指す余地はあると言えるが、相場が週足の雲下限に差し掛かると上値を抑えられる展開が予想される。

【第6図:BTC対ドル、10日、30日、90日、180日物HVチャート】


出所:coinmarketcapより作成

【第7図:BTC対ドルチャート(週足)】


出所:investing.comより作成

しかし、この先相場が強く押したとしても、長期的には悲観シナリオを想定しているわけではない。ポイントとしては、相場が長期上昇トレンドを維持するには、過去の傾向から言ってもう少しエネルギーを溜める期間が必要なのではないかということだ。事実、2015年にトレンドリバーサルが起きる前には、30日線が200日線でゴールデンクロスした後、相場が押し一度デッドクロスに転じてから再びゴールデンクロスを示現した(第8図)。この間に、HVの低下は勿論、200日線の向きも下から横向きとなり、相場が長期上昇トレンドに入り易い環境になったと言えよう。よって、中期的な予想としては、3200ドルから6000ドルのレンジ相場を想定する。

【第8図:BTC対ドルチャート(2014年12月〜2016年7月)】


出所:coinmarketcapより作成

過去のゴールデンウィークの相場動向

明日27日から日本はゴールデンウィーク(GW)で10連休に入る。株式などの伝統的資産の市場と違い、暗号資産市場は休祝日も開いているため市場が手薄とならない。そこで本節では、過去のGW中のBTC相場の値動きを振り返りたいと思う。

まず、結論からいうと、2014年から2018年の間で「GWに相場が上昇する傾向がある」といったアノマリーは確認されない。直近3年のGWでは相場の上昇が確認されるものの、2014年と2015年のGWでは相場が下落しており、はっきりとした傾向はない模様だ(第1表)。

第9図は、2014年から2019年各年の4月1日時点を100とした指数化チャートとなるが、各年ともGW中に特段変わった動きをしている様には見えない(第9図内黄色帯)。むしろ、各年とも直前までのトレンドに沿って相場が推移している。強いて言えば、2018年に限り、GWが相場の天井となりGW明けから下落相場となっているが、これは一貫したGW相場のパターンとは言えない。

今年のGWは、天皇陛下の退位(4月30日)と皇太子様の即位(5月1日)、そしてそれに伴う「平成」から「令和」への改元というイベントが控えており、相場が上昇の勢いを維持すればご祝儀買いを誘発する可能性も指摘されるが、上述の通り、短期的な上値目途は6000〜6500ドルエリアと予想する。

暗号資産市場にとっては初めてとなるイベントなだけに、そのインパクトが如何なるものか注目される。

【第1表:2014年〜2018年GWのBTC相場騰落率】


※対ドル
※各年とも連休の間の平日も含めた期間で集計
出所:coinmarketcapより作成

【第9図:2014年〜2019年BTC対ドル指数化チャート(各年4月1日時点を100として指数化)】


出所:coinmarketcapより作成

【2019年5月スケジュール】


出所:各種報道/情報サイト等より作成

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