2019年6月:暗号資産マーケットダイジェスト

6月相場動向概要

6月の暗号資産市場は、BTCの30%を超える上昇の恩恵を受け市場時価総額は昨年7月ぶりに3000億ドル水準回復を果たした。先月は人民元安に歯止めが掛かり中国からのキャピタルフライトが後退したことが指摘されるが、バイナンスのアメリカ人の利用を今年9月から禁止するとの報道を受けると、主要アルトコインは対BTCで軒並み下落し始め、BTC人気が月中盤にかけて相場を押し上げた格好だ。しかし、先月のように主要暗号資産銘柄は対ドル全面高とはならず、月次では高安まちまちとなった。5月は時価総額上位20銘柄中7銘柄が50%を超える上昇率を記録したが、6月は流石に体力切れとなったか。

一方、Chainlink(チェーンリンク)のLINKトークンは今月、イーサリアム上でのメインネットローンチ、さらにはコインベースプロでの上場が発表され、時価総額上位20銘柄の中では唯一対ドル、対BTCの双方で上昇につけている(月次)。

上述のように、BTCの対ドル相場は月次では30%を超える上昇となっているが、27日には一日で-1700ドルの大幅下落を記録した。この急落の要因としては、コインベースの突然のシステム障害が市場参加者の警戒感を煽ったと見られているが、この他に、CME(シカゴマーケンタイル取引所)のBTC先物6月限月取引最終日(米28日)を目前に、機関投資家が売り仕掛けをしていた可能性も指摘される。

BTC相場の上昇トレンドが始まって3ヶ月程の月日が経過したが、ダウ理論ではこの時期は現在のトレンドが中期的なものか長期的なものかの難しい判断を迫られる時期だ。テクニカル指標は依然強気なものが目立つが(後述)、24時間365日市場が開いている暗号資産市場は、市場サイクルが既存金融市場と比較して早く回ることも指摘される。また、昨今では再びメディアによる強気な報道を散見するため、一旦は調整期間となる可能性も十分あるだろう。

【第1図:主要暗号資産銘柄対ドル月次騰落率(6月)】


出所:coinmarketcapより作成

【第2図:主要アルトコイン対BTC月次騰落率(6月)】


出所:investing.comより作成

テクニカル分析

BTCの対ドル相場は7日、30日、90日、200日線がゴールデンクロスを示現。一方、相場は6月30日に7日線を割り込み、同線は下向きに転じ、短期的には下落相場を示唆している。ボリンジャーバンドでは、30日に1σ(11675.5ドル)を割り込み、15日から続いた上昇バンドウォークが終焉を迎えた。足元ではバンド上辺が折り返してきており、一旦はセンターライン(10248.58ドル)付近まで相場が押す可能性が指摘される。一目均衡表では、30日に相場が転換線を割り込んだが、三役好転は維持している。

【第3図:BTC対ドルチャート】


出所:coinmarketcapより作成

ETHの対ドル相場は7日、30日、90日移動平均線がそれぞれ200日線でゴールデンクロスを示現。一方、相場は6月30日に7日線を割り込み、同線も下向きに転じており、短期的には下落相場を示唆している。ボリンジャーバンドでは、30日に相場が1σを割り込みセンターライン周辺で下げ止まっている。足元ではバンド上辺も折り返しており、目標達成感がある。一目均衡表では、30日に転換線と基準線を割り込んだが、現在も三役好転を維持している。

【第4図:ETH対ドルチャート】


出所:coinmarketcapより作成

XRPの対ドル相場は7日、30日、90日移動平均線がそれぞれ200日線でゴールデンクロスを維持しているが、相場は7日、30日線を割り込み、両線とも下向きとなっており、短中期的に下落相場を示唆している。ボリンジャーバンドでは、27日に相場がセンターラインを割り込み、足元では-1σをも割り込んでいる。バンド上辺も折り返し始めているため、一旦はレンジで横ばいとなるか。一目均衡表では遅行スパンが逆転。また、均衡表も逆転寸前である。相場は30日に抵抗帯(雲)上限を割り込んでおり、揉み合いとなりやすいだろう。抵抗帯下限(0.381ドル)がサポートとして機能するか注目される。

【第5図:XRP対ドルチャート】


出所:coinmarketcapより作成

ネットワーク分析:ビットコインのマイニング、最も「難しく」なる

ビットコインのハッシュレートは5月後半から上昇スピードを早め、7日移動平均は6月24日に58.72エクサハッシュ毎秒(Ehash/s)の過去最高値を記録した。その後、月末にかけての相場急騰を受けハッシュレートの上昇はさらに加速し、29日には60Ehash/s台に乗せた。こうしたハッシュレートの記録的上昇に伴い、マイニングの難易度を示すディフィカルティーも5月31日の調整で7.46テラの過去最高値を記録。さらに6月28日の調整では初めてとなる7.9テラ台に乗せ、前月の過去最高値を更新した。このことで、現在のBTCマイニングは、ビットコインの歴史上最も難易度が高い期間となっている(第7図)。

ハッシュレートの上昇要因は、いうまでもなくBTCの価格上昇がある。昨年は、長期的な下落相場の中、ハッシュレートと共にディフィカルティーは上昇し続けマイニングのコストを押し上げた。その結果、11月のマーケットクラッシュにより相場は多くのマイナーの損益分岐点を割り込み、マイナー勢が相場にさらなる売り圧力を与えたとされている。しかし、足元では大多数のマイナーが安定して利益を確保できていると指摘される。BTCマイニングの推定損益分岐点は、現時点で凡そ※3800ドル〜7500ドルとなっている。27日には相場が一気に1700ドル急落したが、依然10000ドル水準は死守しており、足元ではマイナーによる投げ売りリスクは相応に低いと言えよう。マイニングによる月間報酬総額においても、先月比で17.9%の増加を記録しており、昨年2月から5月頃の4.5億ドル周辺の水準を2ヶ月連続で維持している(第8図)。

マイナーにとって、昨年は損益分岐点との葛藤の年となったが、ここ3ヶ月程ではこうした葛藤も落ち着き、安定してマイニングが行われていると推測される。足元では相場が強く押しているが、推定損益分岐点の上限までは、依然、相応の距離もある。この先注意すべきは、相場下落に対しハッシュレートが逆行上昇し、そうした状況が長期するような事態だ。そうなればマイニングの損益分岐点は上昇していき、マイナーによるBTCの投げ売りが再び発生する可能性が出てくる。27日からの相場下落が長期するか、ハッシュレートの推移とともに注目したい。

※Bitmain社のAntminer S9を0.05ドル/kWh〜0.1ドル/kWhで運用した際の損益分岐点 CoinWarzより作成

【第6図:ビットコインネットワークハッシュレート、ディフィカルティーチャート(6月29日時点)】


出所:blockchainより作成

【第7図:ビットコインマイニング月間報酬総額(線:右目盛)、前月比(棒:左目盛)チャート(6月29日時点)】


出所:blockchainより作成

【第8図:ビットコインマイニング日次報酬総額チャート(6月29日時点)】


出所:blockchainより作成

G20動向:暗号資産に関する目先の規制材料は出尽くしたか

6月8日から9日には、20ヶ国・地域(G20)財務大臣・中央銀行総裁会議が本邦は福岡市で開催された。昨年の夏同様、今回の会議でも米中通商問題、加えて世界経済の下振れリスクへの懸念に焦点が当てられ、暗号資産の国際的な規制についての議論は具体性に欠けるものとなったが、FATF(金融活動作業部会)の規制基準の施行や国際的な規制協力推進を再確認する形で幕を閉じた。共同声明においても、FATFをはじめとする国際的な基準設定団体による協議や市場のモニタリングに期待を示すと共に、分散型金融を可能とする技術の潜在性に触れるだけの形となった。

尤も、昨年10月にFATF勧告が更新され、暗号資産に関する要項が初めて盛り込まれ、こうした規制方針は既に周知の事実であったことに加え、今年2月には、FATF勧告第15に関する注釈ノートの草稿が公開され、「FATF勧告が適用されるために暗号資産を『資産、収益、資金』として捉えるべき」といった文言や、暗号資産関連事業者の登記地での登録またはライセンス取得を運営の最低条件にすること、FATF勧告16の適用の可能性などの詳細は既に市場に晒されていた。そして、この草稿が4月に発行されたFATFのG20宛のレポートに盛り込まれていたことで、今回のG20は市場にとって特段サプライズとなる材料は出ずに終わった。

G20開催直前のBTCの対ドル相場は、3日から4日の急落から一転し方向感に欠ける様子見ムードにも見えたが、G20閉幕後数日の値動きは鈍く、やはりこうした規制動向は織り込み済みであったことが指摘される。G20会議の翌週から開催されたFATF総会では勧告第15に関する注釈ノートが公式に採用されたが、相場にはほぼ無風であった。

28日から29日にかけてはG20首脳会議(G20サミット)が大阪府で開催されたが、当会議でも、目先の規制に関する材料はほぼ出尽くしたため、暗号資産市場にとって目新しい材料はなかった。今回のG20サミットでは、6月18日にフェイスブック社が発表した独自暗号資産のLibra(リブラ)に関する議論の可能性も指摘されていたが、共同声明では、「現時点で暗号資産は国際的な金融システムの脅威とならないが、我々(G20)は業界を監視し、現在あるリスクと新たに発生するリスクに対して引き続き警戒していく」と以前からのスタンスを崩すことはなかった。

期待、反発、懸念を呼ぶフェイスブックの暗号資産Libra(リブラ)

暗号資産に関わらず、G20はあくまで国際的な協調を推進・確認する場となるため、暗号資産市場という一括りでLibra単体が議論されることはなかったと指摘されるが、フェイスブック社に関しては、昨年のケンブリッジ・アナリティカによる個人情報の不正取得事件や、今年3月に福岡県で行われたG20財務大臣・中央銀行総裁会議においてOECD(経済協力開発機構)が提唱するGAFAに対するデジタル課税の来年中の大枠合意承認など、各国が多角的にその動向に注視している。こうした中でフェイスブック社が金融の領域にまで入ってくるとなると、各国ともLibraの存在は無視できない。事実、6月18日にLibraのホワイトペーパーが発表されると、米国をはじめ、フランス、ドイツ、ロシアなど、複数の国の議員や金融規制当局者から「まった」の声が次々と挙がった。これらの組織の懸念としては、①Libraネットワークの規模が大きく経済・金融システムに与える影響が不明瞭なこと、②マネーロンダリング防止などの国際的な金融市場規制基準、また、国によっては銀行業や資金移動業などのライセンス基準に従っていない可能性があること、③さらには中央銀行的な役割を担う可能性があることが挙げられる。Libraの裏付け資産には法定通貨が含まれるものの、トークン自体の発行・消却は基本的に市場の受給によってコントロールされるため、Libraの普及が広がれば、中央銀行は「通貨発行」という最大の既得権益がプライベートセクターに奪われる可能性があり、各国はそれを全力で止めたい格好だ。

主要7ヶ国(G7)では、すでにフランス主導でLibraのタスクフォースを設立している。米議会も今月16日にLibraに関する公聴会を開く予定で、Libraを監視する動きはすでに出てきている。

市場では、そんなフェイスブック社の暗号資産について、6月6日にTechCrunchが、18日にフェイスブック社が自社仮想通貨の発表を予定していると報道、さらにはウォール・ストリートジャーナルが同月13日にVISA(ビザ)、Master Card(マスターカード)やPayPal(ペイパル)といった著名ペイメントプロバイダーが参画していることを報道したことで、6月の目玉イベントの一つとして市場から注目を集めていた。

Libraネットワーク上で発行されるLibraトークン(以後Libra)は、複数法定通貨のバスケットと国債などの低リスク資産の価値に固定されるステーブルコインとなり、フェイスブック社のアプリ「Messenger」と「WhatsApp」上で送金することが可能だという。さらに、今回同時に設立が発表されたLibraアソシエーション(以後協会)には、ライドシェアのUber(ウーバー)とLyft(リフト)、e-コマースのebay(イーベイ)、farfetch(ファーフェッチ)やmercado libre(メルカドリブレ)傘下のmercado pago(メルカドパゴ)なども参画しており、これらの企業が提供するサービスでLibra決済が可能になる見通しだ(18日発表時点での参画企業・団体のリストについては第1表を参照)。

ビットコインをはじめ多くの暗号資産は決済通貨としてのユースケースが少ないが、Libraがローンチされれば、24億人のフェイスブックユーザーに加え、参画企業のサービスを利用するユーザーがLibraの潜在的な利用者となる。また、協会は規制基準を満たした世界中の暗号資産取引所にLibra上場を促していくとしており、Libraを通じて暗号資産がより多くの人口に知れ渡り取引される機会を作ることが期待される。

※2019年3月31日時点の月間アクティブユーザー、ZEOHIRA調べ

しかし、上述の国や中央銀行の他にもLibraには懐疑派がいる。それは、暗号資産ネットワークの分散性を重んじる勢力だ。協会によると、Libraネットワークは将来的にネットワークの分散性を確保していくとしているが、現時点でノードとして参加するにはLibra Investment Token(LIT)への1000万ドル(約10億7000万円)以上の投資が条件となる。つまり、現時点でLibraネットワークは、ビットコインのようなパブリック式ではなくパーミッション式(何らかの中央集権の認可の下で参加可能)のネットワークということだ。

更に、18日のフィナンシャルタイムズの記事では、Libraにはブロックもなければチェーンも存在しないのに、ネットワークの構造を「Libra Blockchain」と称し誤解を与えているといった痛烈な技術的批判まで浮上している。

こうした期待や反発そして懸念が錯綜している状況だが、Libraは、一部の暗号資産界隈からは分散性の欠如を批判される一方で、政府や規制当局の神経を逆撫でし「中央銀行から権力を奪う」といったカウンターカルチャー精神を意図せずして体現しているとも言える。立ち位置のはっきりしないLibraだが、普及に成功すれば現行の貨幣制度を揺るがす歴史的なプロジェクトとなる可能性があるため、その動向が注目される。

【第1表:Libraアソシエーション創設メンバーおよびLibraネットワーク参画企業】

出所:各種報道より作成

7月スケジュール

出所:各種報道、情報サイトより作成


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