エンジニアが語るStellar(ステラ)、インフレ機能廃止の背景と”550億XLMバーン”に込められた想い

ここ最近で、発行枚数の半分に及ぶバーンや、コインチェックへの上場でも話題になったステラ。本コラムでは、ステラの特徴や他のブロックチェーンとの違いなどを詳しくお伝えしていきます。

また、バーンやインフレーション機能廃止の背景についてもお話ししたいと思います。

Stellar(ステラ)誕生の背景とリップルとの比較

Stellarには、個人間の決済プロトコルになろうというコンセプトがあります。

Stellarは、今はStellarデベロップメントファンデーション(Stellar Development Fundation, ※これ以降はSDFと略します)のCTOを務めているジェド氏が立ち上げたプロジェクトで、ジェド氏はもともとRippleの開発などに参加していた方でしたが、ジェド氏が本来やりたかったものはもっと個人ユースを意識したものであったので、Stellarの立ち上げに至ったと聞いています。

初期のStellarはRippleのコピーを意識して作られていました。しかし、今はソースコードも全く違うものになっていて、当初と比較しても全く別物になっています。

Rippleの改善した方がいい点も、Stellarでは修正されていて、エンジニアとしての立場からしても非常に使いやすいです。私自身で調べたり、コードを書いたりもしたのですが、RippleやEthereum(イーサリアム)と比較しても最も扱いやすく、そこが1つステラの利点として挙げられるでしょう。

さらに、もう1つ挙げておきたいStellarの良い面は、パフォーマンスの良さです。3~5秒程度で送金が完了するように、リアルタイム決済が得意であったり、ネットワークの混雑度に左右されず手数料も固定でとても安く抑えられています。

ちなみに、手数料については、ゼロにしてもいいのではないかという議論もコミュニティでされていて、技術的にもそれは可能だと思います。でも、なぜそれを今のところはやっていないのかというと、少額でも手数料を設けることが所謂スパムアタックの防止など、セキュリティの向上に繋がるからだそうです

また、Rippleも同じなのですが、Stellarはウォレットを使い始めるのにアクティベートが必要で、その費用は1XLM(約8円※2019/11時点)です。これによって、スパム目的のウォレット作成を防ぐことも出来ますが、このちょっとした手間は、本当にStellarを使いたい人だけに使ってほしいという思想からきている部分もあるそうです。

一方で、Rippleの場合はアクティベートに20XRP(約6000円※2019/11時点)が必要で、個人が使う上で少しハードルが高いように思えます。その点でも、Stellarはスパムを防ぎつつ、個人ユースを強く意識したものだといえます。

デベロッパーフレンドリーな環境が充実

Stellarは、トークン発行に関する様々な機能も、ブラウザベースのものをSDF側が無償提供しています

Ethereumも、そういったブラウザベースのトークン発行機能は提供している商用サービス、個人サービスなどありますが、メインネットで発行するには有償だったりとした制限があったりします。

またStellarの場合、開発する上でのエコシステムも、他の営利目的の企業が用意するのではなく、SDFが自ら用意し、開発者が開発しやすい環境を常に提供してくれています。StellarのAPIを理解する必要はありますが、Stellar Laboという機能で、Stellarのフル機能をほぼ全てブラウザのみで利用することが可能です。

例えば、最近ではブラウザ型のウォレットを開発するオープンソースコードが新たに公開されて、これによってHTMLさえ用意すれば誰でもウォレットを無料で作成出来るようになりました。そういったエコシステムの充実度も、Stellarの特筆すべき部分でしょう。

Stellarの「インフレーション機能」廃止決定の背景

Stellarには、年約1%で増える発行枚数を、ホルダーから一定票を集めたアドレスへ配布する「インフレーション」という機能があります。その機能には、SDFからXLMを配布することで、口座数を増やしていきたい、また価格を安定させたいという意図もあります。

溜まっていったFee(手数料)についても、投票によって票数を集めた代表アドレスへ再分配される形になります。さらに、その配られたFeeを、代表者に投票してくれた人へ分配する、マインイングプールのようなXLMプールというものが存在しています

例えば、今年にバイナンスは、貯まった950万分(約7600万円 ※2019/11時点 )のXLMをアカウントを保持するユーザーへ配布しました。そのように、その機能がビジネスとして使われている例もありますが、本来は口座数を増やしたり、価格を抑えることを目的としたものになっています。

しかし、次のStellar Coreのバージョンでは、インフレーションが廃止されます。その決定の背景には、口座数を増やすという目的はもう達成出来た点や、インフレーションが当初の目的からそれていった点が挙げれるとSDFは説明しました。

また、そこには多くの通貨をステーキングしてお金を増やすことを目的とした、特定のユーザーが力を持っていくことを避ける意図もあったのではないかと私は考えています。そういったところにみられる、個人間の国際送金のペイメントプロトコルというビジョンを大事にする点、コミュニティが力を持っていくことに積極的な点が、私がStellarを好きな理由の1つです。

「550億XLMのバーン」に込めた想い

11月に、Stellarは発行枚数の半数以上に及ぶ550億XLMのバーンを発表しました。

SDFの公式ページによれば、今流通しているものとは別に、エアドロップ用に確保していた500億XLMをバーンすると説明していましたが、その背景には、もうこれまでのようなエアドロップを行わないという意図があると思います。口座数も現在約400万(※2019/11時点)と、十分なアクティブユーザーも確保出来たので、そこでインフレーションやエアドロップを行っても意味がないと考えたのではないでしょうか。

また、Stellarはkeybaseという高セキュリティが特徴のチャットシステムを買収していて、keybaseアカウントを作ることで、そこに付いているウォレットに約3000円相当のXLMを配るキャンペーンを行っていましたが、参加したのはステラに興味を持たない報酬目当てのユーザーが多かったように感じました。SDFは、このような事例からもエアドロップに対して、アクティブユーザー獲得にあまり効果的ではないことに気づいたのではないかとも思います。

SDFが公表している記事によると、バーンの背景には、新しくユーザーを獲得するよりも、今のコミュニティを育てることに力を入れていく方向で舵を切っていくという想いもあるようです。今後は、コミュニティの中から新たなプロジェクトが生まれることにお金を投じていくことを重視するなど、コミュニティを大事にする姿勢は、私がStellarに好感を持てる理由の一つです。

現在進行中の興味を惹かれる企画として、SDF主催のブログコンテストがあります。Stellarの技術的仕様を分かりやすく書いたブログへ皆で投票して、良質ブログに対して賞金を渡すという企画になっており、月ごとにブログのお題がコミュニティへ提示されるスタイルになっています。

高地 明 ブロックチェーンエンジニア

ITベンチャー、上場SI企業を経て、マネーフォワードにJoinしアプリエンジニアとして従事。その後DMM.comに入社し、CTO室でR&D業務を行い、ブロックチェーン研究室へ移動。セキュアWalletの開発、Stellarの調査、検証などを実施。2019/11にDMM.comを退職後、IoTベンチャーにJoin。

好きな開発言語はCrystalとReasonML。